「食」についてお話しをする前に一言。食事療法などにも西洋医学的、東洋医学的などさまざまな方法論があります。食養中心の方の中には食事がすべてと言う人もいますが、私の考え方はそうではなく、食事も含めトータル(ホリスティック)に考えていこうと思っています。
栄養学の方面からいってもやはり、机上のプランでしかないといえます。人の体の中に入った時点でどう作用するかは正確に把握できません。(あくまでも推論)そのときの体の状態で吸収の条件が変わっていくし、食べ物自体も昔と比べ「力価」 (栄養素の含有量)が違います。また、昔(ほんの数十年前)と比べて、人の「胃」の能力も変わって(落ちて)いるといえます。
諸説もろもろがありますので、どれがいいとか悪いとかでなく、バランス学だと私は考えています。人それぞれ、生まれた環境も、現在の環境も違うのだから特定の方法が万人に効果を表わすことは難しいのです。その辺のところを理解していかなかったら、これを食べれば「何々にきく」とか「何々が治ったというような」展開になってしまいます。
食と健康に関しても実地(臨床)では、好き嫌い(嗜好)という問題や、食事に対するその人の考え方のウエイトの問題。(食事療法がすべてではないが、無視もできない)などなど様々な問題が残っています。いろいろな食事療法があり、それぞれそれなりに効果を上げています。といって絶対の物もありえないと思います。
最終的にはその食事の指導者(または治療者)との相性(出会い・縁)というファクターも見逃せないのではないでしょうか。 あくまでも「食」は健康を手に入れるための「心・体・食」の調和の要素の一つだと私は考えています。その様なことをふまえた上で下記のコラムを参考にしてください
食べ物と健康について
◆身土不二
食 べ物の『陰』と『陽』という考えについて少しお話いたします。東洋医学では「医食同源」を重視いたします。つまり食事こそ、最高の薬であり、医療だという ことです。食物には科学的な栄養価やカロリー以外に食物の性質を考え、各自の体質や症状にあった食べ方を考えます。
例えば南国さんのマンゴーやメロン は、身体を冷やす性質が有ると考えます。つまり、温帯である日本で、そのような果物を食べ過ぎると、冷えからくる病気になりやすいと考えます。「その人が 生まれた土地(地域)で、とれた食べ物を食べたほうがいい」という考え方があり、それを身土不二(しんどふじ)といいます。
◆白砂糖は身体を冷やす
例えば果物 のように身体を冷やす性質を持った食べ物を、陰性の食べ物。反体に温める働きを持った食べ物を、陽性の食べ物と考えます。陰と陽というのは、はっきり二分 されるのではなく、相対的なものです。例えば果物と豆類を比べると、果物が陰性で豆類が陽性す。しかし豆類と肉類を比べると、豆類が陰性で肉類がより陰性 であるといえます。又、果物と白砂糖を比べると、白砂糖の方がより陰性がきつくなります。
◆ナスは陰性、ゴボウは陽性
『陰』とは拡散していくもの、『陽』とは収縮していくものと考えます。野菜に例えと、葉は陰性(空へ向かう)、根は陽性(地中に向かう)となります。だから地上にできる、トマトやナスは陰性。地下にできる、ゴボウやニンジンは陽性となります。又、じっくりと時間をかけて成長し、寒い冬にとれる根采類などは、野菜の中でも陽性の性格を持ち、サラダ菜の様に比較的成長が早くて、水分が多く、本来夏とれるものは、より陰性と考えます。
◆陰を陽に、陽を陰に
陰性の食べ物でも、調理の仕方によりその性質も変わってきます。例えば、熱を加えることは陽性で、煮炊きの時間も長ければ長いほど陽性になります。圧力を加えることも陽性です。逆に冷やすことは陰性。砂糖を加えること、水分を加えることも陰性です。
冬、身体が冷えている時はじっくり煮込んだ暖かいものが欲しくなります。反対に夏は、水分の多い陰性の野菜に、陰性の酢等を加え、冷やして食べるサラダ などが恋しくなりす。本来、トマトやスイカ等は冬には有りませんでした。しかし今は、ハウス栽培でいつでも手に入る時代です。
自然の食べ物には『旬』とい うものがあって、その時期が一番おいしく、そして栄養価も高いものです。自然の食べ物であっても、間違った食べ方を続けると、身体に色々な変調をきたす場合があります。
◆陰の病気、陽の病気
陽性に偏った病気として、「高血圧」「心臓病」等があります。肉食重視の方に多い症状です。この様な人はカリウム分の多い、緑黄色野菜を中心に食べることが大切です。又、婦人病やリウマチ等は、陰性過多の病気といえます。この様な人は白砂糖、果物や肉類といった極陰、極陽をさけ、穀類中心に陽性の野菜を食べることが必要です。
食事療法としてカロリーや栄養価だけで食事を考えるのではなく、この様な食事の考え方も有ることを覚えておいてください。特に今、病気の人は自分の食べ物について。振り返ってみることも大切なことだと思います。陰陽の考え方は食べ物だけでなく、森羅万象全てのことに当てはめることができます。一言で言うと何事も「バランス感覚を大切に」ということになります。
腸内細菌と健康
私たちの腸内を生活の場としてすみつき、私たちの健康に生涯を通じて深いかかわりをもつたくさんの微生物(細菌)がいます。このような細菌を『腸内細菌』といいます。腸内にすむ細菌は集団をなしていて、それらを一括して『腸内菌叢』と呼んでいます。
■好気性の細菌と嫌気性の細菌
大腸菌というと、昔から腸内の細菌の代表のように思われてきました。これば、大腸菌は《好気性菌》といって、空気のあるところでどんどん繁殖するので、培 養しやすくてめだったわけです。これにたいして《嫌気性菌》といって、酸素をきらい、空気のあるところでは発育できないばかりか、空気にふれると死滅して しまうものもあります。これらの細菌は培養がむずかしいために、あまり注目されることはなかったのです。
ところがつい最近になって、腸内にいるこうした嫌 気性の細菌が培養できるようになり、それまで知られなかった新しい細菌が次つぎと発見され、腸内菌叢がどのように形づくられているかその全体像がしだいに わかってきました。そして現在、人間にすみつく細菌は、菌種として100種類にもおよぶといわれ、健康な成人一個人に通常すみついているのは30~40種 類、数にして百兆個程度と考えられています。
■誕生の瞬間から細菌とのつき会いがはじまる
私たち人間は、母親の胎内にいるときは、巧妙なしくみに保護され、まったくの無菌的な環境の中で成長をつづけます。では、無菌の新生児の胎内に、いったい どこから細菌が現われるのでしょうか。赤ちやんは、産道を通過中に細菌にはじめて出会い、出産後に大気を吸い、母親や看護婦と接し、飲みものをのみ、身の まわりのあらゆるものと接触する瞬間ごとに、細菌は体内に入りこんでいくのです。
生れ落ちた直後に排便する胎便には細菌はまったくみられないのに、誕生の 翌日には、早くもたくさんの細菌が検出されます。置かれた環境によって、すみつく菌の種類や数は多少異なりますが、こうして生まれたばかりの赤ちやんは微 生物との共生生活にはいります。では、無菌の新生児の胎内に、いったいどこから細菌が現われるのでしょうか。
腸内菌叢は加齢とともに変化
■乳児の腸内菌叢は、ビフィズス菌が主力
赤ちやんが生まれた翌日に、まず腸内に現われるのは大腸菌や腸球菌などどこにでもいて、空気中で発育しやすい細菌群です。そして生後3~4日目になると嫌 気性のビフィズス菌が現われ、急速にその数を増していき、5日目ごろには腸内で最も優勢であった大腸菌などの数は著しくせってきます。このようにして、乳 児の腸内にはビフィズス菌を主力とする安定した菌叢が形成されていくと考えられます。
■母乳栄養児と人工栄養児の腸内菌叢
母乳を飲んでいる赤ちやんの菌叢は、ビフィズズ菌を主力にして、ほかの細菌の種が少ない比較的単純な構成です。また糞便は、pH々が4.5~5.5で色は 卯黄色、弱い臭いがします。これに対して、粉ミルク(人工栄養)を飲んでいる赤ちやんでは、ビフィズス菌の数はほとんどかわりないようですが、大腸菌や腸 球菌の数がやや多く、そのほかに各種の嫌気性菌も現われ細菌の種類が多くなります。
糞便のpHは5.7~6.7で色は黄褐色、やや強い腐敗臭がします。こ の差は、母乳と人工栄養の主成分である牛乳の性状のちがいが腸内細菌の生育に影饗したために生じると考えられています。
■乳離れとともに腸内細菌も成人型に変わる
離乳期に入り、食品の種類がふえ、おとなの食事に近づくにつれて、乳児の腸内菌叢にも変化がおこります。ビフィズス菌自体もそれまでの乳児型からすこしづ つ成人型のビフィズス菌へと移り変わり、また新しくバクテロイデス、ユウバクテリウム、嫌気性レンサ球菌などと呼ばれる嫌気性菌が急激にふえてきます。こ のように3歳前後から、成人型菌叢としてほぽ固まってきます。
そして、健康状態などの影饗で時どき変動することはありますが、老年期にいたるまで腸内菌叢 は大きく変わることはありません。老年に近ずくと個人差はありますが、腸内菌叢にふたたび変動がおこります。
最も特徴的な変化は、ビフィズズ菌の減少で す。その一方で、アシドフィルス菌など好気性の乳酸桿菌は成年期の百倍近くふえる傾向がみられます。また、腸内で腐敗物質をつぐるクロストリジウム属(ウ エルシュ菌など)の増加がめだつようになります。
■腸内定住の個人差と通過菌
さきに、人間の腸内に細菌が定着して、どのように菌叢をつくっていくかを述べましたしかし、腸内菌叢も、個人個人について詳しく観察すれば、それぞれに特 色のある固有の菌叢をもっています。そして、同じ人でもその人の生活環境や健康状態によっても変化します。
また、ふだん腸内にいるのは、定住菌だけでな く、毎日、食物などと一緒に腸内にやってくるさまざまな細菌類もいます。しかしながら、こうした外来の細菌は、2~3日とどまったのち、排出されてしまう のがふつうです。これについては、また後程お話しいたしま
腸内で細菌は、どのような生活をしているか
私たちの腸内にすみついた細菌は、腸内のさまざまな内容物を自分の能力に応じて利用し、増殖と死滅をくり返しながら、いろいろな物質をつくりだします。
これらの物質が私たちの健康に有益な作用をしたり、害を及ぽしたりします。試験菅内や動物を用いた実験の成績をもとに、人間の腸内でどのようなことがお こっているかを推測すると、次のようになります。
栄養に役立つ働き
■ビタミンの生成と利用
一部の腸内細菌がビタミンB群やビタミンKをつくりだすといわれます。その一方では増殖のためにビタミンB群を利用する腸内細菌のいることも示されています。これらはいずれも無菌動物を用いた実験でわかった事実です。
■食物繊維の分解
腸内細菌のある種類は、人間の消化酵素では消化できない食物繊維(難消化性糖質)の一部分を消化分解する他、腸内に運ばれてきた食物中のコレステロールを分解するものもあります。
外来菌の増殖を抑える
腸内に定住している細菌が、あとから入ってきた有用菌であろうと病原菌であろう外来菌の増殖を阻み、双方の力関係に よってこれらを排除してしまう作用があります。これば腸内細菌が病原菌の感染から、からだをまもる重要な現象です,外来の病原菌に抵抗する定住菌としては ビフィズス菌、乳酸桿菌、腸球菌、バクテロイデス、非病原性大腸菌、一部の嫌気性桿菌などがあります。
これらの定住菌はさまざまな有機酸をつくりだし、腸 内のpHを下げると同時に病原菌に対して抗菌作用を発揮します。また、腸内で細菌が増殖するのは腸の粘膜ですが、定住菌がさきに腸粘膜を占拠してしまって いるため、外来菌は入りこめないのです。
腸内菌叢のバランス
■外来の食中毒菌の侵入
食物に付着していた腸炎ビブリオ、ブドウ球菌、サルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌などが腸内で増殖しておこるのが感染型食中毒です。このような 食中毒菌の侵入に対して、からだば防御機構をもっていて、胃の中で胃を小腸では胆汁酸を分泌して対抗します。
これを通過して腸内に達した食中毒菌は、定住 菌の抵抗をうけることになります。ですから、すこしばかり病原菌が腸内に入っても、すべての人に食中毒がおこるわけではありません.からだの抵抗力が弱っ ていて、腸内定住菌の抵抗力がなんらかの原因で低下しているときに、食中毒にかかるのです。
■定住菌の異常繁殖
腸内に定住している細菌にも、弱い病原性をもった細菌がいます。大腸菌、ブドウ球菌、バクテロイデス、クロストリジウムなどです。その毒性はふだんは抑え られていますが、からだの抵抗力が低下したとき、抗生物質を服用しているとき離乳期あるいはストレスや旅行など生活環境の急な変化の時に、腸内菌叢は混乱 をおこし病原性大腸菌などが異常繁殖して、毒素を大量につくりだし、激しい下痢などをおこすことがあります。これ内因牲感染と呼びます。
■食物成分と腸内細菌
肉ばかりを多食したり、脂肪のとりすぎは一種の偏食です。このような食事では、腸内細菌(有害菌)は、蛋白質が分解(消化)されて腸内に運ばれてきたアミ ノ酸に働きかけて、腐敗性の物質をつくりだします。たとえば食生活が、純日本食から西洋食に変わると糞便中のニトロソアミン(発ガン性物質)の含有量は約 10倍にはねあがります。
一方、腸内に適量の食物繊維(オリゴ糖などの難消化性糖質)があると、腸内細菌(有効菌)はこれを結腸で分解、発酵して有機酸や ガスに変化させます。有機酸には腐敗有害物質ができるのを抑えるりきをするなど、有益な点があります。
以上の事を参考にして食物のとり方を考え、腸内細菌叢を醗酵型にして、腸内有効菌が働きやすい環境に変えることが健康への第一歩です。 (個別の食事指導が必要な方はお尋ねください。)